看護師が教える!乳幼児の虫歯予防・楽しく習慣づける方法
「子どもが歯みがきが大嫌いで毎日大変!」「嫌がっても虫歯になったら困る」というお悩みは多く聞かれます。無理に歯みがきさせようとすると、子どもも親もストレスになってしまいますよね。
今回は、保育園で子どもたちと多く接してきた経験や看護師の知識をもとに、乳幼児の虫歯予防と楽しく続けられる歯みがきの習慣づけの方法をご紹介します。
目次
むし歯にしないための基礎知識
子どもの歯(乳歯)の働き
乳歯は離乳食が始まる6か月ごろから生え始め、2歳半ばには全部で20本生えそろいます。
乳歯の働きは、大きく次の4つです。
① 食べ物をかんで消化を助ける
② 発音を助ける
③ 顔の形を整え顎の発育を助ける
④ 永久歯が正しい位置に生えてくる目印になる
この乳歯が全て、永久歯と生え変わるのは11歳ごろです。
むし歯のメカニズムと予防
むし歯は、歯の表面についた「むし歯菌(ミュータンス菌)」が口の中に入ってきた「ショ糖」を原料にして、粘着性の物質「グルカン」を作ることから始まります。「グルカン」は水に溶けない糊のような物質で、歯の表面に付着してむし歯菌を始めとする多くの細菌の棲家となり、「プラーク」と呼ばれます。このプラーク中の細菌が、食べ物の糖分を栄養源に「酸」を作り出し、時間をかけて歯の表面のエナメル質を溶かし、これが「むし歯」になります。
むし歯を効果的に予防するには、以下の4項目に留意する必要があります。
① 歯みがき:物理的にむし歯菌を少なくしたり取り除く。
② 食べ物や食べ方:むし歯の原因となるショ糖を控え、ダラダラ食べをしない。
③ フッ化物:フッ化物を応用して歯の質を強くする(結晶性を高める)。
④ 唾液:よく噛んで唾液の分泌を高め、むし歯を作る「酸」を弱める
(phを元に戻す)
大人がする仕上げ磨きの効果
歯磨きは、手洗いなどと同じ基本的な生活習慣の一つで、年齢発達に合った方法を知り、むし歯を予防するとともに、大人になっても「口の健康を大切にする気持ちを育む」ことが大切です。歯みがきはむし歯の予防だけでなく、子どもが保護者や周りの大人に「仕上げ磨き」などで口の中をきれいにしてもらうことで、「気持ちよさ」を感じ、「大切にされている」という気持ちを経験する機会になります。
子どもの歯みがきって大変?
こんな経験ありませんか?
「子どもが歯みがきを嫌がって、押さえつけてなんとか仕上げ磨きしている」「毎晩、子どもと闘っている」など子どもの歯磨きに対する悩みは多く聞かれます。何故子どもは歯みがきを嫌がるのでしょうか?
歯磨きを嫌がるきっかけとして、
① 「痛かった」「押さえつけられた」経験
② 口の中に異物を入れられることに対する恐怖
③ 眠たい中で無理やりされた経験
などが考えられます。
子ども達はこれらのネガティブな経験から、歯みがきそのものを「嫌なこと・やりたくないこと」として捉えてしまい、歯みがきを嫌がるようになります。子どもが嫌がっても、保護者は子どもの歯のことを思って歯みがきをするので、無理に押さえつけてもやらないといけない「子どもの歯みがきは戦い」となってしまうというお悩みは多いです。そうすると、子どもにとっても親にとってもストレスとなり悪循環に陥ってしまいます。
歯みがきは、衣服の着脱やトイレなどと同じ基本的生活習慣の一つです。子どもが基本的生活習慣を獲得していくのに大切なのは、「楽しい」「気持ちが良い」などポジティブな感覚から育っていくものです。
また、唾液にはむし歯の原因となる「酸」を弱める効果があり、乳児期は大人に比べて唾液が多く分泌されるため、子どもが嫌がる時は無理に磨かなくてもすぐにむし歯になってしまうことはありません。
歯みがきを楽しくするために
突然「歯みがき」ではなく「準備」が大切
①子どもの心の準備
子どもは1歳前から親や保育士など周りの大人の真似をして、スプーン等を口の中にいれたり、親の口に入れたりして「遊び」の中でスプーンなどに興味を持つようになります。
乳歯が生え始めるのもこの時期です。
乳児期にはまず、子ども自身が「周りの大人に口を触れられる」ことや「歯ブラシ」に慣れることが大切です。仕上げ磨きの際は、大人の膝にゴロンとしてすることが多いですが、お腹をみせる体制は動物にとっていやなことなので、ゴロンしてできる遊びを取り入れたり、鏡で口の中(歯)をみせる習慣を作ることで仕上げ磨きの準備をしていくと良いでしょう。
遊びの中で口のまわりや唇にやさしく触れて、口に触れられることに慣れるような関わりが効果的です。保育園でも0歳児クラスからわらべうた(※)などを歌いながら口を開けさせたり、頬を触るなど顔に触れるなどする中で、「触られることへの恐怖」を和らげ、スキンシップから「子どもが気持ちいい・大事にされている」という体験になるように関わっていくことが、子どもが歯みがきを好きになるために最も効果的な方法です。
※ わらべうた 大根漬け
「だいこんつけ、だいこんつけ、うらがえし、
だいこんつけ、だいこんつけ、おもてがえし」
(何回か繰り返してうたう)
・あそびかた
両手のひらを、下向きにして上下にふります。
拍に合わせて、「だいこん」で一回、「つけ」「だいこん」「つけ」「うら」「がえ」まで、6回上下させます。「し」で、手のひらを上に向けます(手のひらを返す)。次は、手のひらを上に向けたまま、歌いながら、両手のひらを上下させ、最後の「し」で手のひらを下に向けます。
(手のひらを返し、最初の形に戻る)
②実際の歯みがき方法の工夫
親が歯ブラシを使うのをみせると、子どももそれを真似して歯ブラシを口にいれることを覚えていきます。また、人形やぬいぐるみで遊ぶ時に歯ブラシを使って歯磨きごっこ等を行うと歯磨きが楽しくなります。歯みがきが子どもにとって「痛い・嫌な経験」にならないために、歯の生え始めのころは、歯ぐきや歯を指でそっと触れ、「スキンシップから子どもが心地よさを経験できる」ように関わりましょう。この頃は、口の中をガーゼで拭くだけでも、むし歯予防効果が期待されます。
また、食後に水やお茶を飲んだり、ブクブクうがいをしたりすることでも、口の中の酸性化を軽減し、むし歯予防効果が期待できます。3歳頃からは、乳歯が生えそろうため、少しずつ自分でみがけるようにしていくことが大事です。
③子どもが主体の歯みがきにする
歯ブラシは、子ども用と仕上げ磨き用の2本用意しましょう。子ども用は、自分で持てるようになったら一緒に選びに行き、子どもが気に入ったものを使用しましょう。そうすると、「自分で選んだお気に入りの歯ブラシを使う」ということが楽しみとなり、自分で歯をみがくやる気を持たせるきっかけとなります。子ども用の歯ブラシは短く、仕上げ磨き効果が不十分なので、仕上げ磨き用の歯ブラシは別のものを準備しましょう。
また、初めて仕上げ磨きする場合は、まず向かい合ってお互いに歯みがきを持って子どもに親がやってもらいましょう。終わったら、「ありがとう。きれいになったね。次は〇〇ちゃんの歯も綺麗にしても良いかな?」と子どもに問いかけてから始める(許可を得ることが重要)と子どもにタイミングを合わせることで、拒否することなくスムーズにできます。
許可が得られない時には、気持ちが乗るように「〇〇ちゃんのかわいい(かっこいい)歯ブラシ見せて。一緒にやろう」など声かけをして気持ちを盛り上げてみましょう。それでも難しい時には、「今日はおしまい」と切り上げることも大切です。
仕上げ磨きをやっている最中には子ども自身に鏡を持たせて、仕上げ磨きをやっている様子を見せたり、やる側(保護者)が最初から仕上げ磨きが十分できなくてもOK(一瞬で終わってもOK)と思って本人が嫌がったらやめて少しずつ時間を長くしていくように関わることも大切です。
安全に歯みがきするために
歯ブラシを口に入れたまま転倒すると、歯ブラシが上顎や頬に突き刺さる等の重大事故につながります。実際に、6歳以下の子どもが自宅で歯磨き中に喉をつく事故が多数発生しており注意が必要です。
安全にできる環境を整える
子どもが自分で歯みがきする場合は、大人のように立ってするのではなく、保護者がそばで見守り、床や椅子に座らせてする習慣をつけましょう。実際保育園などで複数人が一度に歯ブラシをする時には、保育者が見守りながら子ども達は椅子に座らせた状態で落ち着いてできるような環境を作っています。
安全対策が施されている物を使用する
喉突き防止カバーや、やわらかく曲がる素材の歯ブラシなど様々なタイプの子ども用歯ブラシが販売されています。保護者が仕上げ磨きする用の歯ブラシは、子ども用歯ブラシに比べて長く、喉突きの危険性が高いため、子どもには持たせず、子どもの手の届かないところに保管しましょう。
※出典:消費者庁「Vol.420 歯ブラシ等での喉突きに注意!」
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/child/project_001/mail/20180927/
定期健診の必要性
歯の健康のため、歯科受診はむし歯になってからでなく、定期的に受診しましょう。むし歯治療で初めて受診すると、歯科受診=「痛いことをするところ」と認識して受診自体も嫌がってしまい、むし歯の治療が進まなくなることもあります。
近年子ども向けのしかけなど歌っているこども歯科も増えてきているので、ご自身と子どもの相性の良いかかりつけ医をこの機会に見つけてはいかがでしょうか。